千葉県で矯正専門医として活躍し、10年以上子どものお口の中を見てきた牧野正志先生と吉野智一先生。お二人とも「もちろんメリットはあるが、必ずしも小児矯正をスタートする必要はない」というお考えですが、ではどういう歯ならびであれば子どものころからスタートする必要があるのか。保護者の方が見るべきポイント等もお話しいただきました。
牧野先生
「私は千葉県の八千代市にて矯正専門医として開業をし、もうすぐ10年になります。ベットタウンなので開業当初は子どもの矯正治療が多かったですね。当時、小児用の矯正装置が色々とあったのですが何か一つ主力となる装置を探していたころ、大塚淳先生が開発されたプレオルソに興味を持ちました。最初は分からないことが多い中で使い始め、徐々に知見を増やしていくことができました。現在では、その使用経験を元にして当院の患者さんに勧めたり、学んだことを講習会を通じて歯科の先生方にお伝えしています」
吉野先生
「私は日本大学松戸歯学部を卒業後、大学院で4年間、その後は常勤の助手として大学で2年間勤務して、現在はフリーランス矯正医として千葉県に住みながら埼玉県、静岡県、茨城県など6つの歯科医院に勤務しています。矯正歴は今年13年目です。『プレオルソ』こども歯ならび矯正法を導入したきっかけは土地柄子どもの矯正治療が多く、効果的な治療はないかと探している中で、医局の先輩がこの治療法を導入するタイミングで私も興味を持ち、すごくいい装置だと考えたことでした」
牧野先生・吉野先生
「同じ千葉県に住んでおり、またお互いが歯科医師向けに矯正治療の講演をしていたことがきっかけで知り合いました」
牧野先生
「吉野先生がお持ちの学術的な見解と、自分の臨床的な見解を合わせることで今まで分からなかったことも繋がって勉強になりましたね。今では二人で歯科医師向けに『プレオルソ』こども歯ならび矯正法の講演をさせてもらっています」
吉野先生
「牧野先生の豊富な臨床経験とロジカルな思考が大変わかりやすく、最も尊敬している先生のうちのおひとりです。牧野先生のクリニックにお邪魔させていただくこともあり、『プレオルソ』を通じて巡り合えたことに感謝しています」
吉野先生
「子どもと大人の決定的な違いは成長の有無だと考えています。成長を正しい方向に向けられるかどうかということが子ども矯正の最大の特徴であり、メリットです。最初のちょっとしたズレもできるだけ早期に不正咬合の“芽”を摘んであげれば治る症例も、異常な方向に3歩4歩と進んでしまうと治すのが非常に難しくなることがあります。伸びた背は縮まらないという話と同じで異常な方向に伸びてしまったものを縮めることはできませんので、成長の過剰な個所を抑制してあげたり、不足しているところは伸ばしてあげたりということが子どもの矯正治療の最大の目的と考えています」
牧野先生
「実は成人になってからでも矯正治療はできますので、必ずしも子どもの時期から始めなくても構わないと思っています。ですが、吉野先生の矯正歯科的なメリットの話に加えて、お子さんの周辺環境や人間的成長の観点からも、子どもから矯正治療を始めるメリットはあるのではないかと考えています。
プレオルソを使う場合、毎日のルールを決めて装着しなくてはなりません。お口の体操や寝るときの口テープなど、継続することは大変です。でも、子どもは努力をすることで達成感を得ることができます。地道に続けることの大切さを学ぶことが子どもの矯正治療を行う本当のメリットなのではないかなと思っています。
小児矯正に向いていないお子さんも一定数います。無理してやらせる訳ではなく子どもが自発的に矯正装置を装着した方が得るものは大きいです。将来的にその子の為にもなると感じています。 『プレオルソ』こども歯ならび矯正法は学習塾に近いところがありますね。矯正の学習塾であり、人生の学習塾でもあるのではないかなと思います」
吉野先生
「通わせていれば勝手にできる訳ではなく、家での宿題(努力)も大事になりますよね」
牧野先生
「予習復習は大切になりますね。我が家の上の子は塾に通っていますが、全然予習をしていかないので、当然良い成績は出ません。一方、下の子はピアノをやっていて、レッスンの前によく練習をしていくのですが、そうすると上手くいき先生に褒められることで、さらに上手くなっていきますね。そういったところと小児矯正は近いですよね」
吉野先生
「褒められるとさらに練習もしたくなりますよね」
牧野先生
「保護者の方もお子さんを褒めてあげないと、治療はなかなか上手く行きませんね。病院の先生が月に一回褒めてあげるだけでは少ないと思います」
吉野先生
「保護者の方がお子さんのルーティンでやっていることに対して褒めてあげるのは体力のいることだとは思いますが、そこは子どものために家事の手を止めて『よくできているね』と褒めていただいて、家族ぐるみで子どもの矯正治療に取り組むことが大事だと思います」
牧野先生
「吉野先生も仰っていたように早く始める方が歯の動きも良いですし、骨格の成長も使えるのでメリットもあります。ただ、一概に早ければ早いほどいいという訳ではなく、矯正治療を専門とする先生は小学校低学年くらいが良いと考えていることが多いですね。この時期が、一番バランスが良いかと思います。
正しい成長を促していくということや、歯ならびが悪くなる芽を摘んでいくということを考えるのであれば子どもの時から始めた方が良いと思いますね。混合歯列期後期といって小学校高学年になると永久歯が埋伏していたり、先天性欠如が見つかったり、7番目の奥歯が倒れていたりなど、普通では気付かない症状を早期発見できることもメリットかなと思います。
審美的な改善を中心にするのであれば、永久歯が生え揃ってからの方が、治療期間が短くなるのでメリットは大きくなりますね。こういった場合に、あまりにも早く治療を始め過ぎると治療期間が長くなる可能性があります。その点はデメリットとなるかもしれません」
吉野先生
「私の場合には子どもの矯正治療で必ず治療を勧めるものは決めています。それは、反対に噛んでいる反対咬合(受け口)や、開咬症という前歯が開いてしまって噛み合わさっていない患者さんです。それ以外のガタガタの歯ならびは、先程牧野先生のお話にあった通りで大人になってからでも、大人の歯に生え変わる中学生になってからでもできますし、その方が治療期間は短くなる可能性もありますと話をすることもあります。先程の話にも通ずるところですが、子どもの矯正はあくまでもトレーニングの要素も含めた治療なので、治療期間が長くなりやすいということがデメリットかもしれません。もちろん、どこまで綺麗な歯ならびを求めるかによって治療期間は変わることがあります。一方、先程もお話しした通り成長を使えるという点は大きなメリットです」
吉野先生
「反対咬合は上あごと下あごの骨のバランスの問題なのですが、一般的にあごの成長はまず上あごが前方に成長してきます。その後、小学校高学年にかけて下あごが成長してきます。このため上あごが成長する時期に反対に噛んでいる(下あごが前に出ている)と上あごが成長したくても下あごに邪魔をされて前方に成長しにくくなってしまいます。その状態のままだと上あごの成長が終わってしまい、その後に下あごの成長が始まり、どんどん反対咬合が強くなります。
先程もお話した通り、伸びた骨は縮めることはできませんので、早い時期に前歯の咬み合わせを改善するというのが重要なわけです。また『開咬』も同様に、最初はちょっと開いているだけのものが舌の癖が強くなってくるとどんどん前歯が開いてしまい、奥歯1本しか噛まなくて前歯が全部開いてしまっている状況になってしまうこともあります。
反対咬合や開咬ではちょっとしたズレのところで早めにアプローチして正常に戻してあげるということが、大事です。大人になってそれが進んでしまうと治せない訳ではないですけど、治すのが難しくなります。ここで注意が必要なのは、子どもの矯正治療をやったからと言って全てが確実に治るわけではないのですが、放置すればどんどん悪化するものを食い止められる可能性はありますので、早めに矯正の先生に相談してほしいですね」
吉野先生
「8020運動という『80歳まで20本の歯を残しましょう』という運動が日本歯科医師会でありますけれども、達成者の内訳を見てみると反対咬合や開咬の方は、そうでない方とくらべて将来的に歯が悪くなる可能性が高いことは分かっていますので、それを治していく必要があります。人生100年時代で大人の歯というのは100年使いますので、子どもの将来のためにもそれをなるべく持たせるという意味でも子どもの矯正の大きな役割があると考えられます」(後編に続く)