牧野先生
「基本的には前歯の上下のかみ合わせが一番分かりやすいので、まっすぐに立った状態で噛んでもらって前歯の重なり具合が適正かチェックしてもらえると良いと思います。上の歯が前に出過ぎている、下の歯が上の歯よりも前に出ている、などです。基本的には姿勢が良くないお子さんはかみ合わせも悪い傾向にはあります。かみ合わせが悪いから姿勢が悪いのかは分かりませんが、食事の時も猫背だったりとか、唾を飲み込むときも正しく飲み込めていなかったりするので普段の姿勢もチェックしていただけると良いと思います」
吉野先生
「私も牧野先生と同じ意見です。正常咬合とかけ離れていたら、お子さんの3つの癖を見てもらっています。1つ目が『ほおづえ』で、テレビを見ている時や文字を書く時に毎回『ほおづえ』をついているとあごが曲がって成長してしまいます。2つ目が『寝相』です。うつ伏せに寝ていたり、毎日同じ側を下にして寝ていたりするとあごに好ましくない力がかかり不正咬合を引き起こすことがあります。3つ目がご飯を食べるときに『くちゃくちゃと音をさせて食べる』癖がないかです。くちゃくちゃと音をさせて食べている状態というのは呼吸や嚥下の仕方を間違えている可能性が高いと考えられます。食事中に鼻呼吸ではなく、唇を閉じずに口呼吸をすることでくちゃくちゃと音が鳴ります。この状態では正常な嚥下ができませんのでたいていの場合、ベロを前歯に押し付けて嚥下をします。ベロで前歯を押し続ければ、前歯が外に倒れてしまいます。食べ物だけでなく24時間唾液も出てきますので、24時間ベロで前歯を押し続ければ、前歯が前に倒れて来てしまい出っ歯や開咬になったりしてしまうのです」
牧野先生
「相談と検査は早めに受けた方が良いですが、治療は急ぐ必要はありません。
子どもの矯正治療を相談した際に、今すぐ始めた方がいいと言われて焦って始めてしまうこともあるかと思うのですが、焦り過ぎずいくつかの歯科医院に相談してみると良いと思います。『後で治療すると大変なことになります』ということはほぼありませんので、焦って早めに決断する必要はありません。検査をして治療はしないということも一つの選択肢だと思います」
吉野先生
「奥歯のかみ合わせが左右でずれてしまって、あごが曲がっているお子さんをしばしば診ることがあります。
成長期の早い段階であれば、奥歯のかみ合わせを治すことで正常な成長へと戻ってくれるのですが、放置した場合、どんどんあごが曲がって成長してしまい、最終的にあごの形が変わってしまうこともありますので、早めに奥歯のかみ合わせの異常は治す必要があると考えています。
それは奥歯を見ても恐らく分からないので、上と下の前歯の真ん中がずれている様子であれば一度相談に行くことをお勧めします。前歯の真ん中のズレが歯だけの問題であれば牧野先生がおっしゃる通りに中学生になってからの方が良いと思いますが、奥歯のかみ合わせに原因があってあごの位置がずれている場合は成長が悪い方向に行ってしまうので早めに相談をしてほしいと思います。前歯のかみ合わせの真ん中がずれていたら一回相談に行って、大人になってからでも問題ない状態であればそれでも良いですし、早く奥歯のかみ合わせを治した方が良いということであれば治療が必要になります。この場合も牧野先生のお話にあった通りに幾つかの歯科医院に相談されてはいかがでしょうか」
牧野先生
「先ほどのチェックポイントに戻りますが、奥歯の問題の見分け方のポイントとしてお口を開けてから閉じた時に『横ずれ』がある、まっすぐ動かさず左右にどこか引っ掛かった噛み方をしているなどは注意が必要です。そういった子どもは食べ物を食べる時に両側で同時で噛むことができません、左右に大きくずれながら片側で噛んでいることが多く、吉野先生のお話にあった奥歯の問題の可能性が高いです。食事の時に噛み方を観察してもらうことも大切ですね」
牧野先生
「プレオルソは歯ならびの改善と筋機能の改善の両方を期待できることが特徴です。その分それぞれの効果は弱くはなりますが、同時に両方得ることもできますね。
奥歯のかみ合わせの改善が必要であればポーターやリンガルアーチといった歯の裏側に装着する器具も併用します。
また、アライナー装置と呼ばれる『透明なマウスピース型装置』も使用します。こちらは一時的に前歯の見た目の改善を希望される方が適応です」
吉野先生
「私も“機能的”な改善を期待してプレオルソを使用しています。前歯部の前後的な改善はもちろん、舌のポジションなど、どちらかというとMFT(口周りの筋肉のトレーニング)の要素も重要なポイントを占めると思います。
アライナー装置や拡大装置と呼ばれる装置を使うこともあります。どの装置が優れているかということではなく、装置によりそれぞれ役割が違うと考えています」
吉野先生
「『どんな高級車も一生乗れる訳ではない』というたとえ話が矯正治療では良く出てきます。矯正治療は特殊な場合を除き健康保険が効かない自由診療になります。矯正の治療費はおおよそ100万円ほどといわれていますがこの金額を『高い』と考えるのか、お金を掛ける『価値がある』と考えるかというお話です。100万円は決して安い金額とは言いませんが、子どもたちが100歳まで生きる時代、健康に充実した生活を送るには、健康な歯が大切です。歯を長持ちさせるためには、予防ももちろんですが、しっかり機能している歯ならびを持つということが重要になります。どんな高級車であっても一生乗れる訳ではないので、そう考えると100歳まで使う歯ならびを100万円で手に入れるというお金の使い方は非常に有意義なものではないかなと思います。もちろんお金を払ってただ病院に行けば治るという訳ではなく、矯正治療には患者さん自身の努力も必要になります」
牧野先生
「確かに歯ならびの価値というのは、人それぞれですよね。この話に繋げますと、矯正治療を早くから始めると早めに歯に対して興味を持つことができるのが良い点なのではないかなと考えます。
現在、高齢者が亡くなられる原因の上位になっている誤嚥性肺炎との関係や、食事による脳神経の活性化のためにも長く歯を持っていた方が良いと言われていますよね。子どもが早い段階から歯に関心を持ってもらえることが小児矯正の良いところではないかと思います。
私達の医院では、子どもの矯正治療を始めたらそのお母さんも矯正治療を始めてみようかなという例も結構あります。子どもの矯正治療をきっかけにご家族で歯に対して考えてもらうことが、矯正歯科医師としての私の願いですね」